強制性交等罪(旧強姦罪)
※2017年7月13日に「強姦罪」は「強制性交等罪」に名称が変更されました。
強制性交等罪(旧強姦罪)は、性的自由(性的な事項についての自己決定権)に対する、強度の侵害行為であり、犯罪の中でも最も罰則の重い罪のうちの一つです。
本罪の法定刑は5年以上20年以下の懲役です。
3年を超える懲役刑の場合に執行猶予はつかないため、情状酌量による減軽(刑法66条)が認められない限り,実刑となってしまいます。
改正前は、被害者等の告訴が要件となっていましたが、改正後は告訴がなくても検察は起訴できることになりました。それでも、告訴されていた場合で,告訴の取下げがあれば、起訴されない可能性もなくはなく、最低刑が2年半に減軽されることで実刑判決を免れる可能性があります。
そのためには、本人の反省、家族の協力はもちろん、示談の成立・告訴の取り下げに向けて迅速な弁護活動が重要になってきます。
また、性的犯罪抑止のための治療を受けさせることも有用です。
強制性交等罪の種類
①強制性交等罪
強制性交等罪とは、暴行又は脅迫を用いて相手の同意なしに性交を行なう犯罪です。
たとえ性交渉の準備段階では相手が同意していたとしても、性交に及ぼうとした時に、相手がこれを拒否し反抗したという場合でも、暴行※または脅迫によって性交を遂げようとすれば、強制性交の実行行為として認められます。
- ※
- ここでいう暴行とは、殴る、蹴る、拘束するといった行為が典型です。
もし、相手が13歳未満の場合は、手段を問わず、また、たとえ同意があっても強制性交等罪になります。
強制性交等罪は性的自由を守るための犯罪であるため、まだ自己決定のための能力が十分でないと考えられる年少者に対しては、同意があったとしても強制性交等罪が成立します。
②準強制性交等罪
相手を酔いつぶす等して、心神喪失・抗拒不能の状態にさせて性交を行なった場合は、「準強制性交等罪」となり、強制性交等罪と同様に罰せられます。
③監護者性交等罪
2017年の法改正で新設されました。18才未満の者を監護・保護する立場にある者が、その立場に乗じて性交等を行なった場合には、暴力や脅迫がなくても処罰されます。
④強制性交等致死傷罪
強制性交等罪又は強制性交等未遂罪を犯し、被害者を死傷させた場合、強制性交等致死傷罪になります。
刑も通常の強制性交等罪より重く、最高は無期刑です。情状酌量により刑が減軽(酌量減軽)されれば、最低刑が3年となるため、実刑判決を免れる可能性もありますが、ハードルは極めて高いと言えるでしょう。
暴行中、被害者の抵抗が激しく、性交にいたらなくとも、暴行の過程で傷が生じれば強制性交等致傷罪が成立します。また、行為後、被害者が逃走した後に傷を生じた場合も同様です
罪の重さは?
各罪の法定刑は以下の通りです。
①強制性交等罪 ②準強制性交等罪 ③監護者性交等罪 |
5年以上20年以下の有期懲役 |
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④強制性交等致死傷罪 | 無期又は6年以上の懲役 |
罪を認める場合の弁護方針
何よりも被害者へ謝罪の意を伝え、示談をして告訴を取り下げてもらえるかどうかが大きな分かれ道です。
しかし、通常、被疑者やその家族は、性犯罪の被害者やその家族に会ってもらえない場合がほとんどです。そこで、弁護士が間に入って示談交渉をする必要があります。
示談の相場
被害感情が強く示談ができない場合が多いのも、強制性交等罪(旧強姦罪)の特徴です。
示談できる場合であっても、当事務所が扱った案件では、100万円を超えることが多く、500万円かかった例もあります。
さらに、示談はできても、告訴は取り下げて貰えないということもあります。
示談以外にやるべきこと
再犯防止に向けて最近は、性犯罪者向けの更生プログラムを実施している民間団体があります。そうした団体と連携して、加害者に治療を受けさせるのも再犯防止という観点から効果があります。
無罪を主張する場合の弁護方針
強制性交等罪(旧強姦罪)について、無罪を主張する場合は、ほとんどが性行為について相手の同意があったと主張する場合です。
強姦行為は多くの場合、密室の中で行われます。
したがって、同意があったか否かについて、客観的証拠がないのが普通です。
それでも無罪判決をとるのは極めて困難です。
なぜなら、被害者の女性が、当時の状況を事細かに証言すると、以下の理由で、被害者の証言は信用性が高いとされてしまうからです。
たいてい、検察は次のように主張します。
- 被害者証言は、詳細かつ具体的であり、真実性がある。
- 被害者に、嘘を言う動機がない。
- 被害者が他人に刑罰等を受けさせる目的で虚偽の告訴をした場合は虚偽告訴罪となるため真実性が担保されている。
- 被害者が法廷で法律に基づき宣誓して虚偽の供述をした場合は偽証罪となるため、真実性が担保されている。
- 検察側の主張と合致し、特段不合理な点が無い。
②については、実際には被害者にも、加害者に悪感情を持っていたり、処罰感情から、嘘を言う動機があります。
また、③④については被害者が偽りの証言をしても検察が告訴することは実際ありません。
⑤については被害者の主張をもとに検察側のストーリーが組み立てられている以上、両者が合致するは当然です。
これに対して、被告人供述は、多くの場合、信用性がないという理由で排斥されてしまいます。
- 被告人は、刑事責任を免れるため、嘘を言う動機がある。
- 信用性のある被害者供述と矛盾している。
被告人側の主張が、もし認められなければ(実際認められない場合がほとんど)刑が重くなるリスクがあり、被告人の側にも真実性の担保があるともいえるのです。
そのため、無罪を主張するのであれば、被害者側の供述が捜査過程で変遷していないか、客観的証拠と矛盾しないか、相手方の主張する状況に不自然な点はないかを徹底的に検証し、突き崩す必要があります。
強姦罪(現強制性交等罪)で起訴されながらも被告人が無罪になった例
人通りもある駅前付近の歩道上で、たまたま通りかかった女性を脅して、人気のないビルに連れ込み、乱暴したとして強姦罪で起訴された男性の事件につき、2011年7月25日、最高裁は「(起訴)事実を基礎付ける証拠としては、被害者の供述があるのみであるから、その信用性判断は特に慎重に行う必要がある。」とし、被告人の証言は不自然として、無罪を言い渡しました。
この判決は、強姦罪においては被害者の供述を安易に信用してはならないと警鐘を鳴らしており、被害者供述を偏重する現在の裁判所の傾向を正すきっかけとなることが期待されます。