性的姿態撮影等処罰法違反
性的姿態撮影等処罰法が処罰を定める5つの行為
(1) 5つの行為
2023年に新設された性的姿態等撮影処罰法(正式には「法性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」といいます。)は、①性的姿態撮影、②性的映像記録提供等、③性的映像記録保管、④性的姿態等映像送信、⑤性的姿態等映像記録の5つの行為を処罰するとしています。
(2) 性的姿態撮影
以下の4つの行為をいいます。これらを行おうとして未遂に終わった場合も罰せられます。
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正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(性的姿態等)のうち、※を除いたもの(対象性的姿態等)を撮影する行為(いわゆる盗撮行為)。
※人が通常衣服を着けている場所において不特定または多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出しまたはとっているものは除かれます。
(ア)人の性的な部位(性器、肛門、これらの周辺部、臀部、胸部)または人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
(イ)(ア)に掲げるもののほか、わいせつな行為、性交または性交類似行為がされている間における人の姿態
- 暴行脅迫、飲酒、睡眠、不意打ち行為、フリーズ状態、虐待起因心因反応、地位による影響力等の行為または事由など(以下「暴行脅迫等」といいます。)により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態(以下「不同意状態」といいます。)にさせまたはその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
- 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、またはそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
- 正当な理由がないのに、13歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、または13歳以上16歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
(3) 性的映像記録提供等
A 特定かつ少数の者への提供
性的影像記録((2)の①~④の行為により撮影された映像、ネット配信された同映像をダウンロードした映像の電磁的記録) や、これのコピーを他に提供する行為。
B 不特定または多数の者への提供
前記性的影像記録を不特定又は多数の者に配布し、あるいは、ネットにアップロードする等公然と陳列する行為。
(4) 性的映像記録保管
⑶の行為をする目的で、性的影像記録を保管する行為
(5) 性的姿態等映像送信(ライブストリーミング)
A 不特定又は多数の者に対し、以下のいずれかをする行為。
- 正当な理由がないのに、送信されることの情を知らない者の対象性的姿態等の影像を映像送信する行為
- 暴行脅迫等より、不同意状態にさせ、または、不同意状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等の影像を映像送信をする行為
- ㋐行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、㋑不特定または多数の者に送信されないとの誤信をさせ、または、㋒それらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等の影像を映像送信する行為
- 正当な理由がないのに、13歳未満の者の性的姿態等の映像を送信し、13歳以上16歳未満の者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、当該13歳以上16歳未満の者の性的姿態等の影像を映像送信をする行為
B 上記①~④の行為により送信された映像を、それと知って、不特定または多数の者に対し送信する行為
※ ⑶Aは⑵の行為により撮影された映像を不特定多数に送信する行為であるのに対し、⑸Aは撮影したものをオンタイムで配信するライブストリーミング形式での配信行為を処罰しています。
(6) 性的姿態等映像記録
⑸①~④の行為により送信された映像と知って、ダウンロード等して記録する行為。
罪の重さは?
⑵性的姿態撮影 同未遂罪 |
3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
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⑶A 特定かつ少数者への性的映像記録提供等 | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
⑶B 不特定または多数者への性的映像記録提供等 | 5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金 |
⑷ 性的映像記録保管 | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 |
⑸不特定または多数者への性的姿態等映像送信 | 5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金 |
⑹ 性的姿態等映像記録 同未遂罪 |
3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
法改正による新設
2023年、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律が新しく成立し、同年7月13日から施行されています。
複製品等の没収
撮影罪等を設けることとした場合、これらの犯罪行為により生じた物は、犯罪生成物件として没収の対象となりますが、その複写物は、その対象となりません。しかし、それでは被害者の権利侵害状態が除去されないため撮影罪等の犯罪行為により生じた物の複写物を没収できるものとされました。
刑法19条2項と同様に、犯人以外の者に属しない物に限って没収することができることとしつつ、犯人以外の者に属する物であっても、その者が犯罪後に情を知って保有するに至ったものであるときは、これを没収できることとしています。
拘禁刑
本罪を犯した場合の刑として「懲役刑」ではなく、「拘禁刑」が定められています。2022年にも刑法改正があり、改正12条は、懲役刑・禁固刑を廃止し拘禁刑に一本化するとともに、「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」としました。
懲役刑に処せられると、必ず「刑務作業」を行わなければなりません。しかし、有期拘禁刑に処せられた場合、刑務作業を一律に行わせるのではなく、受刑者の年齢や特性に応じて、改善指導や教科指導を柔軟に行うことが可能になります。また、最近受刑者の高齢化が進んでおり、認知症の受刑者に刑務作業をさせること自体無理があるのですが、法律上刑務作業が義務付けられているため、刑務所の職員の大きな負担になっていましたが、この点も改善されることになります。
ただ、2022年改正刑法のうち、懲役刑と禁固刑を拘禁刑に一本化するためには、刑事施設側の準備も必要なため、同改正部分の施行は3年後の2025年とされています。そのため、本罪も、同法改正が施行されるまでは、懲役刑に処せられることが経過規定で定められています。